5月末頃から30度超えの気温を記録したかと思えば、翌週には20度前後、なんなら体感温度10度の予報まで出し、また30度を数日・・という最近のドイツの天気。去年も30度超えが数日あったものの、冷夏といってもいいくらい過ごしやすかった。今年は最上階の屋根裏部屋(Dachgeschossという)から地上階(Erdgeschossという、日本で言う1階)に引っ越すことになったのだが、まあ30度ともなると家での体感温度が全く違う。屋根裏に住んでいた頃は30度を超そうものなら外に出た方が涼しいレベルだったが、地上階は別世界レベルに過ごしやすいといっても過言ではない。屋根裏部屋からの景色も好きだったんだけれど。
涼しい気候の際はお天気もあまりよくないので、この暑くて晴れる時期を狙って行きたいのがハイキングだ。東から南に引っ越してきたので、アルプスが近い。一昨年スイスでアルプスを堪能したが、ドイツ側からも楽しめるならそりゃー行きたい。しかもDeutschlandticket(鈍行列車なら国内移動は無料の神鉄道チケット)があればアルプスだって無料で楽しめてしまうではないか!そんなよこしまな気持ちも抱えつつ、チャッピーに聞くと「Eibseeという湖がすごく綺麗で、ハイキングにもちょうどいいよ」ということだった。なんでもドイツ最高峰Zugspitze(ツークシュピッツェ)の麓にある透明度の高い湖だそうな。「公共交通機関で3時間ほどで到着して、7kmの周回を経てまた3時間かけて帰るとしてもいけそうやな」そんな大雑把な計画を立てて8:30に出発。
幸いドイツ鉄道にも大きな遅延や乗り換え不可なんてことはなく、無事に最寄駅へ到着。ここからバスに乗り換えて30分だ。駅を出ると目の前にバスが止まっていて「ラッキー」と駆け寄る。出発はまだのようだ・・が、「Deutschlandticket使えません。」
ええ〜?!アプリに出てるのに?!この時点で11時。12時には歩き始めたいのに・・同じくアプリで別の方法がないか検索すると駅の裏側に登山鉄道駅的なものがあり、そのルートが出てくる。普段の鈍行列車と表記が同じRE(レギオナール)なのでいけるだろうとそちらへ向かうと「今日の分はもう売り切れました。」
売り切れるってなに〜?!何時なら買えるんだろうと思って聞くと8時か9時には売り切れるとのこと。どんだけ人気なんだ・・登山鉄道だし観光地だし仕方ない部分もあるとはいえ、3時間かけて来た身としてはショック・・ただで帰るわけにはいかない!とはいえ湖まで歩くとしても3時間以上かかり、そうなるともう晩御飯までにお家に帰ることは不可能・・万事休す。
椅子に座って空を仰ぎつつ、周辺地図とにらめっこしていると鉄道駅がもう一つあるみたい。正確には鉄道ではなくロープウェイなんだが、Wank(ヴァンク)という山がここから徒歩30分ほどのところにあるみたいだ。標高1780mで、これから山頂までは厳しそうだが、途中までのハイキングなら可能そうなので目的をそちらに切り替えることにする。
そうして町中を散策ついでにWankを目指すこと30分、ロープウェーの麓駅に到着。少し登ったので景色がよく、ここでお昼を食す。今日のお弁当は甘くないチキンライスなんだけど、甘くないどころか味がない・・私の力量不足。でも景色をおかずに食べられる!とご機嫌だったのに、知り合いに景色の写真を送ったら「むかつく!」と返ってきて一気にどん底に。(冗談のつもりだったらしい・・)悲しいので送った写真も返ってきたメッセージも消す(笑)
さあて、と大きな地図を前にルートを決める。頂上往復で所要時間は4時間とのこと。それは無理だな。時間がない。中腹あたりに山小屋があって、そこまでは1時間15分との表記だったのでそちらを目指すことにする。森の中に足を踏み入れたかと思えば視界が開けて、さっき頭上のはるか上を動いていたロープウェーのゴンドラが目の前を通過していく。その向こうには快晴のアルプスが出迎えてくれて、「楽しいぞ〜」って言われてるような気がした。
目の前を通り過ぎたロープウェーはまた遥か頭上高く舞い上がり、その下を歩く。これが正しいルートじゃない気がする。地図ではロープウェーの真下をまっすぐ示してはおらず、道は蛇行していたはずだ。まあいいか、他に道はないし。そうして整備された道というよりは誰かが踏んだであろう轍を辿って歩く。すると横から他の登山者が目の前を横切って行き、「これで通常のルートに出れたのだ」とほっとする。
心の中で山頂までの行程が諦め切れないのか、どこか早足になってしまい道中でしゃがみこんでしまう。水はあるがなけなしの500mlで大事に飲みたい。「やっぱり水足りなかったかも〜」と後悔する私の汗ばむ肌を、涼しい風が撫でていく。小鳥が歌い、木々がそよぐ。
私はいつも何かを「達成」したり「ちゃんとしよう」としたがったりする癖がある。人に迷惑をかけることを恐れるあまり、他人のことばかり見すぎて自分を疎かにしたり見失ったりする。そうやって他人ばかり見て自分を見失っている時、周りの景色を見たり空気を読んだり人一倍していると思いこみつつも、見逃している美しいものや素晴らしい瞬間もたくさんあるんだろう。焦らずに、自分の身体と心と対話しながら今日は無理せずに行こう。そんなふうに自然が思わせてくれた。
そうして歩き続けること1時間、目の前が大きく開けるが、同時に現れるのは避けては歩けないであろう量の動物のフンと強めの匂い。もはや試練・・と思いながら歩き標識を確認。下の道と上の道、私は上の道を行けばいい。そうしてふと横を見ると、絶景。思いがけず息を呑んだ。青い空、白い雲、深緑の山に黄緑の草原、赤い屋根の小屋、灰色のアルプス、そしてのは雪だ。標高が高いから未だ溶けない雪。

「わあ〜きれい!!!!!!」
1人なのに大きな声が出てしまう。
「きれいですね〜!!!!」
1人なので山に向かって叫んでしまう。
あとは40分ほどで山小屋に着くんだし、きっともう、今日はここがハイライトだ。
そう思ったのも束の間、その後道に迷い引き返すことになり、道を塞ぐ動物用の電気柵に翻弄され、やっと小屋に辿り着くとそこにはさらに雲、空、山、牛というハイジさながらの絶景が待っていた。しかも誰もいない。しかもベンチ貸切。


信じられないくらいテンションが上がったけれど、足がプルプルなので駆け回りたい気持ちを抑えてスキップし、牛のフンだらけなので草原を転がり回りたい気持ちを抑えて水を飲んだ。目的も達成したしあとは下るだけなので気が大きくなる。
そこから十分も歩くと賑やかな音楽が聞こえてきて、山小屋レストランが見えてくる。ビールを飲みたい気持ちを「次回山頂目指してリベンジするからその時には必ず・・」とグッとこらえる。
街に着くと教会のそばに水飲み場があり、やったとばかりに空の水筒に水を汲み飲む。冷たくてアルプス。ビールを飲みたい気持ちをぐっとこらえて駅まで歩き、我慢できずにスーパーでビールを買った。ここ数年のドイツの夏は暑すぎるからなのか、スーパーでも冷たい飲み物が売っていて助かる。移住してきた頃(といっても3年ほど前)は冷たい飲み物を買える場所は少なかった気がする。常温のビールも全然おいしいけど、暑い日は冷たいビールが沁みる。
3時間かけて電車で帰って、18時過ぎに家に着いて、カレーを作って食べた。リベンジする時は早起きして出かけて、せめて午前中には登頂を開始したいと今から計画を立てている。