nasakoの毎日どっこらしょ

期間限定ドイツ在住中。美しい日々を生存確認的に文字起こし。

海を求めてリューベックへ 辿り着く編

 海が見たくてリューベックへ向かったので、中心である駅は通り過ぎて終点まで。どんよりした空が広がっているのは残念だけど、曇り空でも小雨が降っていてもいろんな駅で降りて行ったり乗ってきたりする人々。そんな人たちに「みんなどこに行くのかな〜私は海を見に行くよ〜」と窓越しに心の中で声をかけ、そんな理由でふらりと身軽に行ける自分と誰かが動かしてくれている列車、そして平和な世界にふと気づき贅沢だなと思ったりする。

 

 

 終点は本当に終点で、その駅より先に列車が行かないという意味ではなく、線路がここで終わっている。先の線路がない駅にはいくつも出会ったことがあるけれど、京都の嵐山線を思い出させる親近感のある駅だった。駅を出ると遠くに見える灰色の景色。曇っているから海も灰色だけど、海だ・・・!!

 

 私は文系だけれど、なぜ海が青いのか小さい頃から全然理解できなかった。「空が青いから青いんだよ」と理系の友人に言われてなんてロマンチックなんだと思った直後に「曇りの日はグレーでしょ」と言われてにわかには信じられなかった。「え?そうだっけ?」キラキラ青く光る海しか記憶になくて、でも確かに曇りの日に海を見たら青色じゃなくて、自分の脳みその都合の良さに目が眩んだ。

 

 人生で初めて臨むバルト海は薄い曇り色で、開けた視界の先にはデンマークが見えるはずなのに(天気が良くても見えないのかもしれないけど、笑)全部グレーだった。風が強いにも関わらず波は瀬戸内海よりも穏やかで、もはや琵琶湖や宍道湖よりも穏やかなんじゃないか、本当に海なのか疑ったけれど、ちゃんとしょっぱかった。海の定義って塩分濃度以外にあるのかな。

 

 街まで戻る列車は1時間後なのでそれまで散策。寒くても海辺を歩くって気持ちいいな、小さくても波の音は落ち着くし、貝殻もムール貝の殻が多くて「ここは日本じゃないんだ」と思う。ところどころに桟橋があって、先まで行けるのかと思ったら3分の1程度しかなくて、その先は枠組みだけ。飛び込み禁止のマークがあるけれど夏には先まで歩けるんだろうか、カモメたちが自慢するように唄っている。

 

 歩いていると干潟のようになっているところがあって今は干潮なんだろうなと推測する。真っ白な羽を閉じてカモメが海を眺めていたので、近づこうと思ったら水に足を突っ込んでしまった。水はないと思ったのに・・カモメは呆れ顔で横目で私を見ていた。

 

 時間が近づいてきたので、今度は海辺の別荘と思われる立派な建物やホテルが並ぶ通りを歩いて駅に戻り列車に乗り込む。冬は少し寂しげだけど、夏はどんなにか賑わうんだろうな。さようなら海の街。これからリューベックを散策してくるよ。日本に帰るまでには夏に訪れてみたいな。

 

 

 

 30分かけてリューベックの街中まで戻る。事前情報では教会などを含めて7つの塔がある街だということで、7つを見るだけでも制覇したい!と目標を立てる。電車の中から街を見るとひと際高い建物が確かに7つ、どこかで上から眺められたらいいなと思うけど、なくてもすぐに見つかりそうだし中心部はそんなに大きくないし、なんなら地図見なくても行けそうだなと安易に散策を開始。

 

 いざ街中に入り込むと巨大な迷路に迷い込んだみたいにさっき見えてた塔がひとつも見えなくて、少し不安になる。天気の悪さもその不安を助長している気がする。一つ目の塔をやっと見つけても他の塔にたどり着けるのか心配になり、寒いしもうやだなと思っているとふと「お腹が空いているんだ」と気づく。そうだったそうだった、ランチはちょっと贅沢して食べたいものを食べよう、海の近くだからシーフードにしようって思ってたじゃん。気分はパスタ、海鮮のパスタがいいな。気づくと途端に空腹に拍車がかかるのはいつも不思議だ。

 

 近くのパスタを検索してまだやっているお店に入る。店先でグレーヘアのおじさんが煙草を吸っていて、シェフが店を閉めたのかと思ってもう終わりかと聞くとさあ?とジェスチャーした後にどうぞと通してくれる。お客さんだったのかなと思いつつ中に入ると女性の店員さんが奥でテーブルを拭いていた手を止めてくれる。キッチン前の通路脇の席を指差し座ってもいい?とジェスチャーで聞くとお好きにどうぞとジェスチャーされる。席に座ると一気に力が抜けた。あったかい。ありがたい。

 

 エビのパスタを白ワインを注文。白ワインだけが先に来て、ちびちび飲みながらパスタを待つ。お昼時はまずまず過ぎているけど私と同じくらいのタイミングで注文しているお客さんもいて、1人しかいないシェフは忙しそう。前後の席に料理が提供されたあと、シェフが「あの人は注文してるの?」と聞いていて「エビのパスタだよ、ちゃんと言ったよ」「あ、そうか」と話しているのが聞こえる。どうやら忘れられていたみたいだけど、居心地いいしいくらでも待つよ。

 

 雨風を凌げるあたたかい場所で料理を待っていられることのなんたる幸せ。先進国にいるとあたりまえのように感じてしまうけれど、「安全であること」は人生でかなり重要な条件だと思う。幸せなことだな。

 

 パスタを運んできてくれたのは外でタバコを吸っていたおじさんで、ここの店員さんだったみたい。チーズをかけると美味しいよ、辛いのが好きだったらどうぞと唐辛子を持ってきてくれて、ウィンクまでしてくれた。イタリア人っぽいな〜!?イタリア行ったことないけど!笑

 

 運ばれてきたエビのパスタは思っていた以上のボリュームだったけれど本当に本当に美味しくて、お腹いっぱいになってもまだ食べていたかった。別に特別なことがあったわけじゃないんだけど穏やかであたたかくておいしいものをくれる空間が本当にありがたくて幸せで、終始にやにやしていたと思う。最後は「本当においしかったですありがとう」をつたないドイツ語で伝えてお店を後に。やっぱり風は強いし雨は続いていたけど、幸せとエネルギーが体の中に満ち足りていた。満足ってこういうことかあ。

 

 結局地図を見ながら塔をまわったけど、「あれ?これ最初に見た塔か、ん?いま何個見てどれがどこだ?」ってなったりしてぐだぐだに終わってしまった。でも別に目的のある旅じゃないし、こういうことがあるから旅はおもしろい。感じれたことはたくさんあったし、楽しかった。ありがとう、リューベック。またね。

 

 

 電車でハンブルクに戻る間に疲れがむくむくと身体を支配して、駅に着いた頃には1人なのに「疲れた」と何度も口に出していた。もうすぐにでも寝たい、寝たら明日は自分の住む街に帰る日だ。さっきのパスタがまだまだ胃を膨らませていて、お腹はそんなに空いてないけど眠れないと困るからりんご1個くらい買って帰ろう、食べれなかったら明日食べたらいいや。そんな気持ちでスーパーに寄ったのに、気づいたらおそらく2kgくらいあるであろうバナナを買っていた時には「脳がバグるってこういうことか」と戸惑った。明日帰るのに、BIOのバナナが1ユーロという破格がバグを助長した。

 

 ほんとうに、こういうことがあるから旅はおもしろい。帰ってからと朝と、3本ずつくらい食べたけどまだまだ残ったバナナ、ちゃんと家に持って帰って食べました。

 

 今日もドイツを楽しみました◎